こちらは東日本大震災復興支援・チャリティ小説同人誌『文芸あねもね』公式ブログです。
最新情報や執筆者&内容紹介など随時更新しています。
「女による女のためのR-18文学賞」過去受賞者(+α)で
「少しでも東日本大震災被災者の力になれれば」と話し合った結果、同人誌をつくることになりました。
2011年7月15日より2012年2月24日まで、電子書籍サイト・パブーにて電子書籍版を販売、
その後紙の書籍として新潮文庫に入る運びとなりました。
現在、朗読プロジェクト「文芸あねもねR」も進行中!
【執筆者一覧】
彩瀬まる・豊島ミホ・蛭田亜紗子・三日月拓・南綾子・宮木あや子
山内マリコ・山本文緒・柚木麻子・吉川トリコ(五十音順/敬称略)
■イラストレーション/さやか ■デザイン/山口由美子
※参加者の詳細は「プロフィール欄」をお読みください。
※この企画の成り立ちについては「はじめに」をお読みください。
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朗読プロジェクト・「文芸あねもねR」始動(してます)!
2013.02.16 Saturday | category:あねもねR
こんにちは。
今日は2月16日。「文芸あねもね」が文庫としてリリースされた日から、
もうすぐ丸1年になります。
昨年末の記事で第一報を入れさせていただきました
朗読プロジェクト「文芸あねもねR」ですが、
今月頭にサイトを開設、本格始動しています!
公式サイトはこちら!
サイトでは、発起人の井上喜久子さん&田中敦子さんに加えて
新しい参加声優さんのお名前も公開されています……超豪華!
そして告知が遅れてしまい申し訳ないのですが、
プロジェクトの始動にあたり、声優さんたち+αで
トークショーを行う運びとなりました!
詳細はRの公式サイト内のこちらで
ご確認いただきたいのですが、
執筆陣から、彩瀬まる&吉川トリコが出演予定です。
3月3日(日)、場所は文化放送さん12Fのメディアプラスホール
(最寄り駅:浜松町)で、チケットは1席2000円。
開場13時、開演14時を予定しております。
……が、このイベント、実は応募締め切りが明後日、18日(月)!!
(告知が遅くなりすみませんすみません……)
しかも申し訳ないのですが、お席は抽選制。
人気声優さんのイベントとあってかなりの高倍率になっているという噂もありますが、
行きたい! 席ゲットしたる! というチャレンジャーの方は
すかさず「あねもねR」公式サイトの応募フォームから申し込みをお願いします。
*
また、イベントは「トークショー」なのですが、
朗読本番! オーディオブックの収録も順調に進んでいるそうです!
第1回は3月上旬配信予定。
オーディオブックって、高くてなかなか手が出ないものですが
『文芸あねもね』は1話ずつバラ売りで販売して下さるようです。
iPhoneアプリで、お気軽に購入できる模様!
もちろんチャリティーです。
売り上げから諸経費を引いた額が
東日本大震災復興支援のために寄付されます。
あねもねRの公式サイトでは、収録などの情報が
順次アップされていますので、ぜひご覧下さい。
*
ちなみにこの記事を書いている私は豊島ミホですが、
「耳で聴く」物語の思い出って結構あったりします。
中2までは生粋のアニヲタとして育ってきた私……
いわゆる「ドラマCD」などもよく買って聴いていました。
そしてそのドラマCDがもっとも活躍したのは、
高熱で寝込んだ時……
文字通り手も足も出ない……(布団から)
本のページもめくれないしテレビを見るには姿勢がつらい。
聴き慣れた音楽を流すだけではちょっと手持ち無沙汰。
そんな時、一番楽しめたのがドラマCDでした。
健康な時より耳を澄まして、たくさん場面を想像しながら聴いたものです……
寝込んだ時に一気聴きしすぎたせいで、
大人になって寝込んだ時も
「ああ……ドラクエのドラマCD聴きたい……」と思ってしまいました。
……それは極端な例ですが、
お話を耳で聴くのって、文字を追うスピードには追いつかないもどかしさがある反面、
丁寧に場面を想像したり、
あとは「このキャラはこんな声なんだぁ……」ってしみじみ思ったりできて、
紙で読むお話とまた違った楽しみがありますよね。
このブログをご覧のみなさまにも楽しんでいただけますと幸いです!
今年は朗読プロジェクト「あねもねR」、よろしくお願いいたします!
また、こうしてここで告知はしていますが、
「あねもねR」は私たちの企画ではなく、
井上さん・田中さんはじめ、声優さんたち+文化放送さんが主体になって
動かして下さっている企画です。全部ご厚意!
ありがたいことです……。
もとは『文芸あねもね』というアンソロジー作品ではありますが、
また別なチャリティー企画として、
「あねもねR」がみなさんの元に届き実を結ぶことを、執筆陣一同願っております。
(文責・豊島ミホ)
映画『自縄自縛の私』公開中です!
2013.02.10 Sunday | category:あねもね作家のその他お知らせ
めっきり冷え込む季節、みなさまいかがお過ごしですか。
アカデミー賞受賞式見たさにとうとうWOWOWに入ってしまい、テレビ廃人決定の柚木麻子です。ほんと、どうしよう……。
さてさて、文芸あねもねメンバー、ここに来てみんな大忙しです。秘密の掲示板で毎日のように熱く語り合っていた日々が遠い昔のように思えます。どんどん書き込みが減っていくその様は連日満員だった部室が受験シーズンで閑古鳥ともいうべき状態……。いやー、私、R-18文学賞出身者じゃない部外者だからはっきり言いますけど、みんなめきめき売れてきてます!! 電子書籍出版当時はまだ著作のなかったメンバーらもどんどん羽ばたいています。ああ、あねもねはトキワ荘だったんです!! さらに豪華声優陣による朗読チャリティー企画「文芸あねもねR」プロジェクトいよいよ始動……。
これも「文芸あねもね」を支えてくれた読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
*
さて、R-18文学賞ムーブメントは映画界にも広がり、ついには歴代受賞作品の映画化プロジェクトまで始動。「第7回女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作品、蛭田亜紗子の「自縄自縛の私」が映画化され、現在公開中です。
ごく普通のOL、百合亜は仕事のストレスから自分を解放する手段として、自分で自分を拘束する趣味にのめり込む。ネットで知り合った同じ趣味を持つ紳士とやりとりを交わすうちに、日常がほんの少しずつ変わり始める……。原作にコメディの要素を加えたストーリーです。正直言うと、原作ファンとしてはあの繊細な皮膚感覚がどこまで表現されるか、不安な部分はあったのです。
息をひそめて壊れやすいパイを丁寧に積み重ねていくような蛭田亜紗子の文章あってこそ、小さな秘密を持たなければ生きていくことすらおぼつかないヒロインに読者は自分を重ねてしまうのです。淡々とした仕草で体を縛るヒロインは自己の存在の輪郭を必死でなぞりたいようにも、この世界に自分をつなぎとめたいようにも思えるのです。映像になったらこの感じ、伝わるのかな? 蛭田作品の持ち味だったら、まだ色のついていない新人女性監督の方がいいんじゃないのかな?
しかし、心配は杞憂でした。見終わった後、ベテラン竹中直人監督の手にゆだねて大正解だったと、思わずほうっと息をもらしてしまいました。縄が肌にくいこむ時、百合亜の得ている安心感、心が放たれる幸福感が指先から伝わるようで、確かに彼女の息づかいや鼓動が聞こえてくるのです。ヒロイン演じる平田薫さんの水辺にすっと咲く青い花のような存在感、控えめな表情の中で時折ゆらっと揺れる強い意志、透き通るようなヌード、とぼけた味わいを持ちながら突き放したクールな佇まいにも、ぐっと惹きつけられます。ネットで自縛の情報を集め、見よう見まねで麻縄を鍋で煮て、いとしそうに縄に頬ずりするシーンなども、手芸にいそしむかのようでとても可愛らしい。服の下に縄を巻きつけたまま出社したりジョギングしたり、自らを拘束する手錠の鍵をポストにわくわくと投函する様はまるで少女の一人遊び。淫靡というより、健気でどこかユーモラスです。誰にも見せずに好きなことを楽しむという当たり前の贅沢に私は何度かはっとして、唐突に自由になったような気がしました。
生真面目な百合亜を追い詰める原因とも言える家庭環境、および「育てる」システムのないブラック企業のずさんな経営。それは父親という絶対的存在が欠落している現代日本そのものです。そんな中、竹中直人監督の視線だけは父そのもので、常に優しくヒロインを包み、揺るぎなく見守っています。縄をまとってアイマスクに下着姿で床に転がるヒロインがエロティックというより、胎児のようにくつろぎ満足そうに見えるところが何よりもそれを証明しているのではないでしょうか。あまり書くとネタバレになってしまいますが、津田寛治さん演じる上司の張り詰めた表情がフッと緩む瞬間が素晴らしい。彼の存在と緻密な演技がキュートでいじらしいこの作品に「父親との和解」というテーマをもたらし、壮大で普遍的なものに変えていると思います。
ラスト、拘束から解き放たれたように歩き出すヒロインの姿がいつまでも胸に残りました。温かい風が吹き込むような、大切な誰かを抱きしめたくなるようなそんな作品ですので、こんな季節にぴったりだと思います。皆さん、是非、劇場に足を運んでみてください。
*
続いて、あねもねメンバーの新刊情報です。
2月7日幻冬舎より刊行されたばかりの南綾子の新作「マサヒコを思い出せない」。書き下ろしを文庫で購入できるという後ろめたくなるようなお得感です。ダメ人間デパートとも言える南作品の中でもトップクラスにランクされる最低の男、マサヒコをめぐる女性たちを描く連作小説。人妻、お笑い芸人、読者モデル、スケート選手と様々な環境にある女性たちは、みな現状に打ちのめされ卑屈で打算的。その余裕のなさゆえ、必ず傷つく結果が待ち受けている悲惨なスパイラルに生きているのですが、その流れを自らの手で断ち切り、一歩踏み出すしたたかさを身につける。それが「捨てる」行為に集約されています。南綾子の名人芸ともいうべき伏線の緻密な張り方と回収の手際の良さがさらに洗練され、もはや一種のミステリーとして読解可能なほどの読み応えです。なによりも救いがたい非情さで、呼吸するように女を傷つけ、尊厳を踏みにじるマサヒコが圧巻!!
徹底的に自己中で生臭いセックス描写は、心が通わないゆえに実に気持ちよさそうで、もう神々しくすらある。イケメンを軸とした女の子のささやかな成長譚を期待した読者は手痛く裏切られると思います。しかし、マサヒコのセックスが不衛生で思いやりがなければないほど、彼が無意味な嘘をつけばつくほど、それでも彼が必要な女性たちの切実さ、すがるものがない追い詰められた生活がひしひしと伝わってくる構成は見事としかいいようがありません。マサヒコの視点はとうとう一度も出てこないのに、読み終わった後、彼の荒涼とした人生に思いを馳せ、さっきまで視点を重ねていたはずの羽ばたいたヒロイン達をまぶしくさえ感じてしまう……。バレンタイン目前にこの作品が刊行されたこと自体が、なんだかマサヒコのやりそうな意地悪なたくらみのようにさえ思えてきます。皆さん、苦い苦いでも上質なチョコレートのようなこの作品、是非、手にとってみて下さい。
そして我らが豊島ミホ「リテイク・シックスティーン」も2月7日、幻冬舎からついに文庫で発売されました。いつも胸にある大切な記憶の断片、忘れられない親友との約束そのもののようなこの作品が、楽に持ち歩けるサイズで販売されるのは、ファンとして本当に嬉しいことです。
美人で優等生の小峰沙織は高校に入学してすぐに友人になったクラスメイト・貫井孝子から、「あたし、未来から来たの」という仰天の告白を受けます。なんと孝子は二十七歳で、冴えない高校時代をやり直すために時空を超えてやってきたというのです。あの豊島ミホがSF!? しかし、派手でいかにもな事件は、この誠実な作品において一度も起きません。沙織は半信半疑のまま、彼女と行動を共にすることになるのですが、衝撃のプロローグから考えれば拍子抜けするほど、ごくごく当たり前な高校生ライフを二人は送ることになります。孝子のちょっと風変わりで振り切れた言動は、ひとえに「高校時代を後悔したくない」というアラサーの叫びそのものなのですが、もしかすると彼女の妄想か、中学時代の事故の後遺症か、誰にもわからないという仕掛けが秀逸です。わざわざ時空を超えてきたというのに、孝子がやりたかったことというのが、友達とお弁当を食べる、彼氏をつくる、海で遊ぶ、言いたいことを言う、猫を助ける、といったささやかなものであるところが、いちいち愛おしい。慎重派で先読みしてばかりの沙織が世界に向ける視線もまた孝子に影響され変わっていきます。教室の空気や木漏れ日の角度や夕焼け、本当にちょっとした断片が、彼女にとってもかけがいのないものになっていくのです。
「あの時間をもう一度やりなおす」という奇跡が仮に起きても、人は結局、一瞬一瞬を大切にするより他はない。目の前の相手と対峙する時は過去も未来もなく、その人が世界のすべてになる。本当に真摯に生きていたら、未来を見越して、計画的に動くことなど、ほぼ不可能なのです。現役高校生はもちろん、胸の中にたくさんの断片をとどめた大人にも是非読んでもらいたい。どうしても器用に立ち回れない、今しか見えないおろかな我々を、豊島ミホが全力で肯定してくれる傑作です。
*
ちょっと長くなりましたが、以上、あねもねメンバーの新作告知です。あ、柚木麻子原作のBSプレミアムドラマ「嘆きの美女」(毎週土曜日・23時15分から〜)と実業之日本社から刊行された「王妃の帰還」なんていうのも、気が向いたらよろしくお願いします。
みなさま、寒いので、とにかく風邪をひかないで!
体さえなんとかしてれば、あとはどうとでもなるから!(母の口癖)
(文責・柚木麻子)
アカデミー賞受賞式見たさにとうとうWOWOWに入ってしまい、テレビ廃人決定の柚木麻子です。ほんと、どうしよう……。
さてさて、文芸あねもねメンバー、ここに来てみんな大忙しです。秘密の掲示板で毎日のように熱く語り合っていた日々が遠い昔のように思えます。どんどん書き込みが減っていくその様は連日満員だった部室が受験シーズンで閑古鳥ともいうべき状態……。いやー、私、R-18文学賞出身者じゃない部外者だからはっきり言いますけど、みんなめきめき売れてきてます!! 電子書籍出版当時はまだ著作のなかったメンバーらもどんどん羽ばたいています。ああ、あねもねはトキワ荘だったんです!! さらに豪華声優陣による朗読チャリティー企画「文芸あねもねR」プロジェクトいよいよ始動……。
これも「文芸あねもね」を支えてくれた読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
*
さて、R-18文学賞ムーブメントは映画界にも広がり、ついには歴代受賞作品の映画化プロジェクトまで始動。「第7回女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作品、蛭田亜紗子の「自縄自縛の私」が映画化され、現在公開中です。
ごく普通のOL、百合亜は仕事のストレスから自分を解放する手段として、自分で自分を拘束する趣味にのめり込む。ネットで知り合った同じ趣味を持つ紳士とやりとりを交わすうちに、日常がほんの少しずつ変わり始める……。原作にコメディの要素を加えたストーリーです。正直言うと、原作ファンとしてはあの繊細な皮膚感覚がどこまで表現されるか、不安な部分はあったのです。
息をひそめて壊れやすいパイを丁寧に積み重ねていくような蛭田亜紗子の文章あってこそ、小さな秘密を持たなければ生きていくことすらおぼつかないヒロインに読者は自分を重ねてしまうのです。淡々とした仕草で体を縛るヒロインは自己の存在の輪郭を必死でなぞりたいようにも、この世界に自分をつなぎとめたいようにも思えるのです。映像になったらこの感じ、伝わるのかな? 蛭田作品の持ち味だったら、まだ色のついていない新人女性監督の方がいいんじゃないのかな?
しかし、心配は杞憂でした。見終わった後、ベテラン竹中直人監督の手にゆだねて大正解だったと、思わずほうっと息をもらしてしまいました。縄が肌にくいこむ時、百合亜の得ている安心感、心が放たれる幸福感が指先から伝わるようで、確かに彼女の息づかいや鼓動が聞こえてくるのです。ヒロイン演じる平田薫さんの水辺にすっと咲く青い花のような存在感、控えめな表情の中で時折ゆらっと揺れる強い意志、透き通るようなヌード、とぼけた味わいを持ちながら突き放したクールな佇まいにも、ぐっと惹きつけられます。ネットで自縛の情報を集め、見よう見まねで麻縄を鍋で煮て、いとしそうに縄に頬ずりするシーンなども、手芸にいそしむかのようでとても可愛らしい。服の下に縄を巻きつけたまま出社したりジョギングしたり、自らを拘束する手錠の鍵をポストにわくわくと投函する様はまるで少女の一人遊び。淫靡というより、健気でどこかユーモラスです。誰にも見せずに好きなことを楽しむという当たり前の贅沢に私は何度かはっとして、唐突に自由になったような気がしました。
生真面目な百合亜を追い詰める原因とも言える家庭環境、および「育てる」システムのないブラック企業のずさんな経営。それは父親という絶対的存在が欠落している現代日本そのものです。そんな中、竹中直人監督の視線だけは父そのもので、常に優しくヒロインを包み、揺るぎなく見守っています。縄をまとってアイマスクに下着姿で床に転がるヒロインがエロティックというより、胎児のようにくつろぎ満足そうに見えるところが何よりもそれを証明しているのではないでしょうか。あまり書くとネタバレになってしまいますが、津田寛治さん演じる上司の張り詰めた表情がフッと緩む瞬間が素晴らしい。彼の存在と緻密な演技がキュートでいじらしいこの作品に「父親との和解」というテーマをもたらし、壮大で普遍的なものに変えていると思います。
ラスト、拘束から解き放たれたように歩き出すヒロインの姿がいつまでも胸に残りました。温かい風が吹き込むような、大切な誰かを抱きしめたくなるようなそんな作品ですので、こんな季節にぴったりだと思います。皆さん、是非、劇場に足を運んでみてください。
*
続いて、あねもねメンバーの新刊情報です。
2月7日幻冬舎より刊行されたばかりの南綾子の新作「マサヒコを思い出せない」。書き下ろしを文庫で購入できるという後ろめたくなるようなお得感です。ダメ人間デパートとも言える南作品の中でもトップクラスにランクされる最低の男、マサヒコをめぐる女性たちを描く連作小説。人妻、お笑い芸人、読者モデル、スケート選手と様々な環境にある女性たちは、みな現状に打ちのめされ卑屈で打算的。その余裕のなさゆえ、必ず傷つく結果が待ち受けている悲惨なスパイラルに生きているのですが、その流れを自らの手で断ち切り、一歩踏み出すしたたかさを身につける。それが「捨てる」行為に集約されています。南綾子の名人芸ともいうべき伏線の緻密な張り方と回収の手際の良さがさらに洗練され、もはや一種のミステリーとして読解可能なほどの読み応えです。なによりも救いがたい非情さで、呼吸するように女を傷つけ、尊厳を踏みにじるマサヒコが圧巻!!
徹底的に自己中で生臭いセックス描写は、心が通わないゆえに実に気持ちよさそうで、もう神々しくすらある。イケメンを軸とした女の子のささやかな成長譚を期待した読者は手痛く裏切られると思います。しかし、マサヒコのセックスが不衛生で思いやりがなければないほど、彼が無意味な嘘をつけばつくほど、それでも彼が必要な女性たちの切実さ、すがるものがない追い詰められた生活がひしひしと伝わってくる構成は見事としかいいようがありません。マサヒコの視点はとうとう一度も出てこないのに、読み終わった後、彼の荒涼とした人生に思いを馳せ、さっきまで視点を重ねていたはずの羽ばたいたヒロイン達をまぶしくさえ感じてしまう……。バレンタイン目前にこの作品が刊行されたこと自体が、なんだかマサヒコのやりそうな意地悪なたくらみのようにさえ思えてきます。皆さん、苦い苦いでも上質なチョコレートのようなこの作品、是非、手にとってみて下さい。
そして我らが豊島ミホ「リテイク・シックスティーン」も2月7日、幻冬舎からついに文庫で発売されました。いつも胸にある大切な記憶の断片、忘れられない親友との約束そのもののようなこの作品が、楽に持ち歩けるサイズで販売されるのは、ファンとして本当に嬉しいことです。
美人で優等生の小峰沙織は高校に入学してすぐに友人になったクラスメイト・貫井孝子から、「あたし、未来から来たの」という仰天の告白を受けます。なんと孝子は二十七歳で、冴えない高校時代をやり直すために時空を超えてやってきたというのです。あの豊島ミホがSF!? しかし、派手でいかにもな事件は、この誠実な作品において一度も起きません。沙織は半信半疑のまま、彼女と行動を共にすることになるのですが、衝撃のプロローグから考えれば拍子抜けするほど、ごくごく当たり前な高校生ライフを二人は送ることになります。孝子のちょっと風変わりで振り切れた言動は、ひとえに「高校時代を後悔したくない」というアラサーの叫びそのものなのですが、もしかすると彼女の妄想か、中学時代の事故の後遺症か、誰にもわからないという仕掛けが秀逸です。わざわざ時空を超えてきたというのに、孝子がやりたかったことというのが、友達とお弁当を食べる、彼氏をつくる、海で遊ぶ、言いたいことを言う、猫を助ける、といったささやかなものであるところが、いちいち愛おしい。慎重派で先読みしてばかりの沙織が世界に向ける視線もまた孝子に影響され変わっていきます。教室の空気や木漏れ日の角度や夕焼け、本当にちょっとした断片が、彼女にとってもかけがいのないものになっていくのです。
「あの時間をもう一度やりなおす」という奇跡が仮に起きても、人は結局、一瞬一瞬を大切にするより他はない。目の前の相手と対峙する時は過去も未来もなく、その人が世界のすべてになる。本当に真摯に生きていたら、未来を見越して、計画的に動くことなど、ほぼ不可能なのです。現役高校生はもちろん、胸の中にたくさんの断片をとどめた大人にも是非読んでもらいたい。どうしても器用に立ち回れない、今しか見えないおろかな我々を、豊島ミホが全力で肯定してくれる傑作です。
*
ちょっと長くなりましたが、以上、あねもねメンバーの新作告知です。あ、柚木麻子原作のBSプレミアムドラマ「嘆きの美女」(毎週土曜日・23時15分から〜)と実業之日本社から刊行された「王妃の帰還」なんていうのも、気が向いたらよろしくお願いします。
みなさま、寒いので、とにかく風邪をひかないで!
体さえなんとかしてれば、あとはどうとでもなるから!(母の口癖)
(文責・柚木麻子)