こちらは東日本大震災復興支援・チャリティ小説同人誌『文芸あねもね』公式ブログです。
最新情報や執筆者&内容紹介など随時更新しています。
「女による女のためのR-18文学賞」過去受賞者(+α)で
「少しでも東日本大震災被災者の力になれれば」と話し合った結果、同人誌をつくることになりました。
2011年7月15日より2012年2月24日まで、電子書籍サイト・パブーにて電子書籍版を販売、
その後紙の書籍として新潮文庫に入る運びとなりました。
現在、朗読プロジェクト「文芸あねもねR」も進行中!
【執筆者一覧】
彩瀬まる・豊島ミホ・蛭田亜紗子・三日月拓・南綾子・宮木あや子
山内マリコ・山本文緒・柚木麻子・吉川トリコ(五十音順/敬称略)
■イラストレーション/さやか ■デザイン/山口由美子
※参加者の詳細は「プロフィール欄」をお読みください。
※この企画の成り立ちについては「はじめに」をお読みください。
※「作品タイトル」(原稿用紙換算枚数)執筆者名
「アメリカ人とリセエンヌ」(45枚)山内マリコ
地方の大学。冴えないアメリカ人留学生ブレンダは、わたしの唯一の友だちだ。二人きりで平和な日々を送っていたが、留学期間が残りわずかとなったある日、ブレンダはクラブで知り合ったチャラい男に恋してしまう。
「二十三センチの祝福」(61枚)彩瀬まる
家庭を失い、一人孤独に暮らしていた加納達夫は、ふとしたきっかけから同じアパートに住むグラビアアイドル・ルルコの靴を修理するようになる。隣人と薄い不幸を分け合ううちに、彼が直視した「冷酷な自分」とは――。
「水流と砂金」(35枚)宮木あや子
15歳、桜の季節。学院に現れた異端「矢咲実」に私は惹かれはじめる。魂が壊死してゆくようなこの世界から、きっと彼女は私を連れて逃げてくれる……。矢咲と黒川さくらの出会いを描いた、『雨の塔』序幕。
「川田伸子の少し特異なやりくち」(46枚)蛭田亜紗子
ラブホテル清掃員川田伸子三十一歳は、アニメキャラクター・西大路かれんになりきって暮らしている。外見も挙措も、ネット上の人格も。他者になりきることでしか生きていけない、そう盲信する彼女の狭い世界に起こる変化とは?
「真智の火のゆくえ」(164枚)豊島ミホ
子供の頃から、自分の心の中の火が見える真智。火が欲するのは、他人からの賞賛と勝利だった。真智は同級生で一番強い被虐待児の将也に憧れ、年月をかけて彼の隣のポジションを得る。なおかつ他人に認められる特技である「絵」を使って、美術大学に入学する。しかし二十歳の春、真智には才能の、将也には自信の、限界がそれぞれにせまっていた――。
「私にふさわしいホテル」(44枚)柚木麻子
文壇史上最悪のデビューを飾った新人作家の「私」。作家の聖地、山の上ホテルを舞台に、人生とプライドをかけて文豪・東十条宗典に一夜の罠をしかける!ヒートアップする「私」の野心が行き着いた衝撃の結末とは?
「ばばあのば」(79枚)南綾子
売れない小説家の「わたし」は三十歳で独身。素敵な男性との出会いもなく、このまま孤独に年老いていくのではないかとビクビクしながら暮らしていた。あるとき、不吉な予言を口にする“ばばあ”に遭遇し――。
「ボート」(46枚)三日月拓
どうすればいいのだろう。あたしはもう、戻れないのだろうか。長いあいだ不妊に悩んでいた「あたし」は夫にすすめられるまま、スーパーのレジうちのパートを始めた。そして妊娠した。夫ではない人の子どもを。
「子供おばさん」(38枚)山本文緒
四十七歳で病死した中学時代の友人・美和の通夜に出席した夕子。生前の美和への複雑な感情を思い出しつつも日常に戻った夕子のもとに、美和の兄から連絡が入る。「妹があなたに託したいものがあることがわかりまして」――美和が夕子に遺したものとは?
「少女病 近親者・ユキ」(28枚)吉川トリコ
26歳、金なし職なしのチャラ男ユキ。めんどくさいことださいことはしたくない。いつまでも何にも縛られずふらふらしていたい。そんな彼が、きょうだい同然に育ったいとこの結婚式当日に見たものとは――? 『少女病』(8月16日光文社より刊行予定)の後日譚。
こんにちは、もしくは、はじめまして
「文芸あねもね」の表紙イラストを描かせていただいたイラストレーターのさやかといいます。
今回参加していらっしゃる作家の皆さんが、ご一緒にお仕事をした絵描きさんは
たあーーーーーーーーーっっっっっくさん!!!いらっしゃるというのに
そのなかからわざわざ私を選んでくださったことがあんまりにも光栄すぎて、あんまりにも「やります!!!」即答しすぎて
「え...、ギャラないよ?スケジュールは?本当に大丈夫?」
...とご心配をおかけした......ほどに!!!
声をかけていただいて本当に、嬉しかったです。
作家さんでもない私の震災話を聞いてもなんにもならんだろう...
と思い、今回は本の話をします、よかったら聞いてください。
本をつくって売るということは、ひとつの大きなチームプレイだと思っています。
本のために絵を描かせていただくとき、作家さんの書かれた物語を読みます。
「この作家さんがなにを伝えたがっているのか、この本に必要な絵はなんなのか」考えながら読みます。
作家さんのそばで物語を見守ってきた編集さんにも「この本をどんな風に売りたいのか」聞きます。
さらに、営業さんが書店に本を持っていったときに、書店さんがこの本に好印象をもっていただけるように
書店員さんが「この絵なら店内のいろんなとこに置いても、お店が華やか(もしくは楽しそう)になっていいな」と思っていただけるように
いろんな人の角度から考えて一枚の絵を描き上げます。
本は作家さんひとりの力で売ることはできません。
どんなに素晴らしい物語を書いても、それを売るために一生懸命になってくれる人がいなくては、多くの人に手にとっていただくことはできません。
作家さんの想いがあって、それに共感した編集さん、デザイナーさん、絵描きさん、印刷してくれる人、営業してくれる人、売ってくれる人たくさんの人の想いが重なりあって、響きあって読んでくださる方のお手元に、心に届くんです。
この「文芸あねもね」も、
電子書籍の同人誌なので上のメンツとはちょっと異なりますが
でも、ひとりひとりの作家さん、作家さんがお世話になった方、自分のとこでだすわけじゃないのに広告を載せてくださった出版社さんや、新聞社さん、この本とは直接関係なくても応援してくださる方
たあーーーーーーーーーっっっっっくさんの人の想いが重なり合ってできています。
そして、震災に遭われた方を想って手にとってくださった方の優しさが加わって、「文芸あねもね」は完成、完結すると思っています。
どうかぜひ、このチームプレイに参加してください!
たくさんの方に参加していただけるように、作家のみなさん一生懸命頑張っていらっしゃったんです。
そして、参加作家さんの御本でまだ手にとっていないものがある方は、ぜひ書店さんへ!
いっしょに経済まわしていきまっしょい!!!
紙媒体ではないので、本棚に残すことはできませんがそれでも
手にとってくださった方の心にずっとずっと残る一冊になりますように
東北で頑張っていらっしゃる方の小さくても確かな支えになりますように
祈って、ながいながい挨拶にかえさせていただきます。
ペーペーイラストレーターなのにえらっっっそうにいろいろ言ってすみません!!!
読んでくださってありがとうございます。
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さやか
イラストレーター。2004年、TIS公募 学生・アマチュア部門銅賞受賞。
文芸書の表紙画・挿画などを中心に活躍。
表紙を担当した書籍に辻村深月『本日は大安なり』吉屋信子『花物語』など。
「さやか家のパイン」http://pine.chu.jp/pine/
この度、東日本大震災で被害に遭われた方々に、こころよりお見舞い申し上げます。
一日も早い復興を願っています。
はじめまして
デザイナーの山口由美子と申します。
このような、豪華メンバーの中に通常、裏方であるべきデザイナーが顔を出すというのは恐縮するばかりですが、
このような場をくださったあねもねメンバーに心から感謝いたします。
3/11、産休もそろそろ明け、友人と展示会をするための準備に追われ、
いつものように、ケーブルテレビでつけっぱなしで海外ドラマをみながら、作業をしておりました。
通常、ニュース速報すら流れない海外ドラマチャンネルなのですが、
突如画面の隅に「津波警報」という日本地図が登場し地震があったことを知りました。
速報を知ることも遅れ、私が見たものはもうすでに津波に飲み込まれたあとの風景。
ぷっかりと、ひっくり返って浮かんでいる車は、きっと駐車場においてあったものだと思い込みましたが、その車がくるりと回転したとき
後部座席に白い手が見えたことが今でも忘れられません。
私が住んでいる九州は、まったく揺れることもなく、窓から海を見ても穏やかで
外は春まっさかりで、その明るさが余計に怖さと悲しさを感じさせました。
その後も殆ど生活に影響もなく、義捐金を送る以外に、乳呑み児を抱えた自分にも出来ることはない。
そう思っていたときに、宮木さんからこのお話にお誘いをいただきました。
女流作家というと、なぜだか、私には貫禄があり、グラデーションのメガネをかけている(いつの時代だ)といった、大間違いな思い込みがあったのですが
今は「女子」であるしなやかさとやわらかさを持ちながら、エロスも書ければ、本物の笑いも作れて、ものごとの本質にもきちんと切り込んでいく。
そんな風にパワーアップしていると感じます。
そんな彼女たちに力を貸すことは、デザインくらいしか出来ない自分にとって
大きな役割になるかもしれない、と思いました。
皆さんとても熱心で、仲良し。
内気に一人で書いている感じはまったくなく、オープンな制作活動にも驚きました。
どの世界でもプロというのはやっぱり「過程」も大切にするなあ、と思ったものです。
デザインにも妥協せず、「自分が作るんだ」という責任感とこだわりのある
通常の本とはまた違う熱意がこめられていると思います。
そんなわけで、どの作品もぬかりはありません。
一時現実を忘れて大いに楽しめる作品ばかりです。
デザインも、そんなそれぞれの思いを一輪のあねもねに託し
それをひとつの集合体にしたものです。
カラフルさは、彼女たちの生命力。
(震災後地味な色が売れているそうですが、みなさんこうゆう時こそ色から元気をもらってください!)
そして、それぞれの物語はたくさんのあねもねの咲く大きな庭園をイメージし
全話の扉絵がひとつに繋がるデザインになっています。
女の子が元気な会社は大丈夫。
女の子が元気がなくなると、その会社は危ない。
そんな話を聞いたことがありますが、女子がこれだけ元気なら日本はまだまだ大丈夫。
元気を分けてもらえるサービス精神満点のアンソロジー集がまもなく完成です!
(あとは私の努力しだい…)
山口由美子
デザイナー。2006年、日本観光ポスターコンクール銀賞受賞。
2010年よりフリーランスにて活動。
はらん名義でニットアクセサリーデザイナー、イラストレーターとしても活動中
「はらん色見本帖」 http://haran.jimdo.com
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※2011.7.2より 別府市「私に見える世界展 ∴別府龍宮∴」にて壁画を展示します。別府観光のついでに是非いらしてください。
こんにちは、初めましての方がほとんどだと思います。彩瀬まると申します。
このたびの地震およびそれに伴う様々な事故、災害で被害を受けた多くの皆様に深くお見舞いを申し上げます。
日々すこしでも、ほんのすこしずつでも、今なお苦しみを背負っている方々の状況が改善されていきますよう、心より祈っております。
地震の瞬間、私は福島県北部の沿岸の町にいました。
今まで体感したことのない大きな地震が収まった後、乗っていた電車を降りてあちこち崩れた町を歩いていたら、背後から追ってくる無音の津波に気づきました。
死に物狂いで高台に避難して、そこから、つい先ほどまで歩いていたごく普通の、家があり、商店街があり、学校があったのどかな町が鉛色の海に呑まれていくのを、ただ呆然と見ていました。
その後、関東の家に帰ってきてからも思考の糸が切れたまま、物資を送っても義援金を送っても、自分が無痛であることへの罪悪感が消えない日々を過ごしていました。
「文芸あねもね」のお誘いを頂いたのは、そんな時でした。
一人で右往左往しているよりは、まとまった金額を送ることが出来るかも知れない。
「こんな時に小説なんて役に立たない」とうつむいているよりも、書き続けることで、一人でも二人でも、読んで下さった方に「楽しい」と感じて頂けるかも知れない。
そんな風に思って、参加を決めました。
参加することで、罪悪感を薄めようとは思っていません。
ただ、やらないより、やる。これからもやり続けていきたいと、思っています。
私が書いたのは、ごく普通の男性の、ごく普通のご近所づきあいの話です。
彼はごく普通に妻を呪い、ごく普通にさみしがり、ごく普通に隣人といたわりあいます。
とても平凡な人です。けれどそういう人がじっと考えて、歩いたりしゃがんだりする話を、今とても書きたいと思いました。
お手にとって下さった方に、少しでも清々しい気持ちになって頂けることを願って。
彩瀬まる(あやせ・まる)
1986年1月25日生まれ。水瓶座。
2010年「花に眩む」で第9回R-18文学賞読者賞 受賞。
震災体験を綴ったルポ「川と星 −東日本大震災に遭って−」を電子書籍で発売中。
http://www.shincho-live.jp/ebook/result_detail.php?code=E001101
好きな笑点メンバー 三遊亭小遊三
ツイッター http://twitter.com/maru_ayase
3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震で被災された方々に、こころよりお見舞い申し上げます。
わたしは当日、一人で自宅にいました。仕事をさぼって光GENJIのDVD(数年前に閉店セールをやっていた近所のCDショップで衝動買い)をぼけっと見ている途中で揺れだし、はじめは「ハイハイいつものいつもの」などと余裕をぶっこいていたのですが、そのうち棚の物が落ちたりタンスが勝手に前進したりして、さすがのわたしも命の危機を感じるようになり、しかしどうすればいいのかわからなくて、玄関と窓際をいったりきたりしているうちにおさまりました。
あんなに怖い思いをしたのは、大げさでもなく人生ではじめてだったかもしれないです。落ち着かなきゃ、冷静に状況を把握しなきゃ、と自分に言い聞かせつつ一番はじめにしたことは、「とりあえず靴下を履く」ということでした。防災グッズを押入れの奥からひっぱり出したのは、それから四、五時間ほどたってからのことです。
ところで、我が家にはテレビがありません。なので、東北地方を襲った津波被害を知るまでには少し時間がかかりました。しかしネットで「原発がヤバイ」という情報はわりとはやい段階から目にしていたので、とにかく被曝の心配と、絶えない余震と、翌日には出社しなければならない(わたしは会社勤めをしています)イヤさで、もうストレスMAXで頭がおかしくなりそうでした。その晩はダウンジャケットを着てポケットに懐中電灯を入れたまま寝ました。変な夢ばかり見たのを覚えています。
土曜日曜と出社して、月曜からしばらくお休みだったので数日実家に帰りました。被曝と余震と、何より一人きりでいるのがとても怖かったのです。
と、ここまで読んでお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、そうです、わたしはぶっちゃけ、自分のことしか考えていませんでした。会社が忙しかったとか、頼れる恋人もいない正真正銘の一人ぼっちだったとか、いくらでも言い訳できるけれど、でも自分のことばっかり考えていたのは紛れもない事実です。被災地のことに目を向けるようになったのは、多分実家に帰って以降です。
こんなわたしなんで、自分にできることは何だろうと悩んだり、あるいは何にもできない自分に歯がゆさを感じて心を痛めるなどといった状態に陥ることなんてありませんでした。給料が入ったらそれを義捐金として送って、そんな自分にちょっと満足感を覚えたりしてました。改めて考えるとサイテーですが、わたしなんてこんなものです。
なんで、この同人誌のお話をいただいたときも、これといった意義のようなものを感じることもなく、お友達に誘われたからやろっかなー、程度の感覚でした。
しかしね!
この原稿を書いているときに、ふと気がついたのです。わたしのような、もともとボランティアとかに関心がなかったり、自分のことしか考えてない、考えられない人、あるいは生活が大変で自分や家族のことで手いっぱいの人たちをも巻き込めるのが、チャリティ的なもののよさなんだってことに。そんなの当たり前のことかもしれないですが、わたしは自分がやってみてはじめて実感しました。
世の中にはいろいろな人がいて、全ての人がこの災害から何かを感じて心を痛めているわけではない。心を痛めているけれど、いろいろあって身動きの取れない人もいる。だけど、何かをできる人だけがやる、というだけでは、こんな大きな事象は乗り越えられないかもしれない。それほどに、3月11日を境に日本は大きく変わってしまいました。
多くの人を巻き込むには、ちょっぴり頼りないメンツかもしれないですけど(一部例外のぞく)、中身の充実ぶりは半端ないです。誰の、どの作品を読んでもおもしろい! はず!
ちなみにわたしはこの際なんで思い切って、自分の身に実際起こったこと(恋愛沙汰とはいえないようなでもなんかそんな感じのようなでもそうでもないこと)をモチーフに書いてみました。正直かなり恥ずかしいですが、こんな機会でないと書けない話のような気がするのでまあいいです。それから、「これってわたしのことですか?」とかいった問い合わせ、モデル料の請求には一切応じられませんのであしからず。
南綾子
1981年愛知県名古屋市生まれ。
「夏がおわる」で第4回R−18文学賞大賞受賞。
最近一番びっくりしたのは、映画を見に行ったら隣の席にクドカンがいたこと。
ブログhttp://diary.minaming0610.com/(絶賛不定期更新中!)
この度、東日本大震災で被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。また、今なお不安と緊張のさなかにいらっしゃる方々が、一日も早く穏やかな日常を取り戻せますように。
初めまして。柚木麻子と申します。
このたび、「文芸あねもね」に参加させていただくことになりました。読者の方にしてみれば、何故このメンバーにオール讀物新人賞出身者が? と訝しく思われることでしょう。作風も、女性の揺らぎやきらめきをさりげなく切り取ってみせるR−18文学賞出身の皆さんの中で、浮いていると思います。拙いということ以前に、なんだか一人だけ前のめりな感じが……。例えるなら、サントリーの名作CM「上を向いて歩こう」篇で、堺正章や大滝秀治のいぶし銀の歌声に交じって、ここぞとばかりに抑揚をきかせるベッキーを見つけたような違和感……。
でも、明らかに張り切り過ぎているベッキーの気持ちが、私にはとてもよくわかるのです。「文芸あねもね」に声をかけていただいた時、舞い上がってしまったのは事実です。ささやかな額しか出せない義援金や献血以外の方法で、私も役に立てるかもしれない。三月十一日以降逃れることができなかった無力感から解放され、目の前がパッと開けた気分でした。役割を与えてもらう、必要としてもらえるということは、ふがいなさを噛み締めている今、本当に有り難いことでした。
今回書かせていただいた「私にふさわしいホテル」は、初の一人称作品です。山の上ホテルを舞台に、人を蹴落としてでもなりふり構わずのし上がろうとするヒロインは、かなり私に近いキャラクターです。チャリティ企画にこんな話を出していいものかどうか、正直不安もあります。
ニュースで目にする、東北の方々の譲り合い精神には胸打たれると同時に、私の自分本位が恥ずかしくもなりました。戦後最大の震災被害を目にしてもなお、文芸誌に自分の名前がどれくらいのフォントで載るのかを気にしているなんて、どうかしているのではないでしょうか。今回のように支援につながるのなら、我欲をガソリンに小説を書くことは、そう悪いことではない、と自分に言い聞かせていますが、恥ずかしながら何一つ明確な答えは出ておりません。きっとこの先も迷いだらけです。それでも今は、書くしかないのだと思います。
最後に、山の上ホテルは本当に素晴らしいホテルです。ああした静けさと思いやりが今後も受け継がれる日本であることを願っています。そして、作品を書くために参考にさせていただいた「山の上ホテル物語」(白水社)の著者、常盤新平さんにも心からの感謝を申し上げます。
柚木麻子(ゆずき・あさこ)
1981年8月2日生まれ。獅子座。
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞。
受賞作を含む短編集「終点のあの子」を2010年文藝春秋より刊行。
得意な顔真似 ロバート・デニーロ
ツイッター http://twitter.com/yuzukiasako
連載小説「嘆きの美女」 http://www.aera-net.jp/magazine/nageki/
今回の一連の災害で被災されたかた、そして、直接的な被害は受けていなくても、気持ちのどこかになまなましい傷口をつくったまま日々の生活を送っているすべてのかたに、こころよりお見舞い申し上げます。
3月11日、私の住んでいる札幌は震度3で、さほど大きな揺れは感じませんでした。ただ、揺れの長さに、これはただごとではないと胸騒ぎを感じたことを憶えています。
テレビで流れる映像の凄惨さに対し、家から出ると震災前と一見なにも変わらない賑やかな光景が広がっているというギャップ。距離というもののもどかしさを感じた日々でもありました。物理的な意味でも、ひととひとの気持ちのうえでも。
たとえば、家族とクラスメイトのほとんどを失ってしまった小学生の心情を皮膚感覚で完璧に把握するなんて、いまの私にはとても困難で、そのことが歯がゆいです。
この災害絡みで起こった多くのことがらは、「考え中」ボックスに入れたまま、まだ答えを出せないでいます。
今回のチャリティ企画に誘われたときも、正直迷う部分がありました。しかし、参加するからには、「お金」という目に見えるかたちで少しでも多く被災地への支援を行う、その手助けができたら、と考えています。
自著の解説、といった行為はあまり性分に合わないし粋じゃないと個人的には思っているのですが、今回私が書いたものについての説明を。
滑稽で間違ったやりかたでしか世間とのバランスを取ることができない、そんな人間が葛藤する小説です。現段階での私の書くものは、8割がたそういう話であるような気がします。
まったくもって、「復興」「チャリティ」といった響きに似合うような物語ではありません。
このタイミング・この目的で自分がそういったおもねりを含んだものを書くのは、あらゆる意味で誠実じゃないと感じたので。
そしてどんな時代においても、ひとは個人であり、社会は個人の集合体だと思うので。
それでも、この企画のために身銭を切ってやろう、というかたへ。
どうか、よろしくお願いします。
蛭田亜紗子(ひるた・あさこ)
1979年北海道札幌市生まれ・在住。射手座、AB型。
2008年「自縄自縛の二乗」で第7回R−18文学賞大賞を受賞。
改題した受賞作を含む短篇小説集『自縄自縛の私』を2010年新潮社より刊行。
好きな寿司ネタはハマチ。
http://twitter.com/funeko_/
はじめまして、吉川トリコです。
はじめましてではない方もいらっしゃるかもしれませんが、このブログでははじめましてです。
企画の趣旨を考えると、どうしても今回の震災のことに触れなくてはいけないのかもしれませんが、正直にいってしまうと、今回の震災についてなにか書くことがいまだにこわいです。もしかしすると、この先もずっとこわいままかもしれません。
吐き出すそばから自分の言葉がうそっぽく感じられる、というのは、とくに今回にかぎったことではなく、これまで生きてきた経験からくるものですが、3月11日以降、その乖離が激しくなっているかんじがします。
耳障りのいいきれいな言葉を並べることもできるのかもしれませんが、なるべく正直に、嘘のないように書こうとすると、こういうことになります(それでも、こうやって言葉をタイプしていくそばから、どんどん「ほんとうのとこ」から遠ざかっていく感覚はあるのですけれど)。
どうもすみません。
3月11日以降、安否確認含めるもろもろのやりとりを、参加メンバーとしているうちにこの企画がはじまっていました。
ちょうど3月の終わりぐらいだったでしょうか。ばあっとひらめきがあって、たちどころにいろんなことが決まっていって……あのときの興奮といったらなかったです。
そう、わたしはあのとき、はっきり興奮していました。いまもすこし、しているかもしれません。なるべくたんたんとしていたい、と思うのに、どうしても興奮する心をおさえられません。
この企画に参加するにあたって、いかに「やってやったぜ!」という気持ちから逃れるか、というのがわたしの課題です。「やってやったぜ!」と思いたくないんです。でも、どこかで、そんなふうに思っているわたしがいるのもたしかです。
「やってやったぜ!」だろうとなんだろうと、やらないでいるよりいいじゃない、とは思います。慈善活動なんてつきつめればみんな自己満足なんだから、それで自分が気持ちよくなったとしても罪悪感を感じなくたっていいじゃない、とも思います。「偽善で結構、やらない善よりやる偽善だ!(@ハガレン)」だと思うんです、ほんとうに。
でもやっぱり「やってやったぜ!」と思いたくない。泣きそうなぐらい思いたくないんです。
なんてふうに、持ち前のねちっこさで、ぐるぐるバターになりそうなほどぐるぐるしたりすることもあるのですが、同人誌用の原稿を書いたり、この企画に関連してこまごました雑用なんぞやってるときは、そんなこと考えてる余裕なんてなく、こざっぱりとしていられました。いま〜私の〜ねがいごとがーかなうならばー雑用がほーしーいー、とせつに思います。その前に流しにたまった食器を洗いなさいよ、ってかんじですけど。
「販促のため作品についてもっとちゃんと言及してください!」
とブログ班長からお達しがあったので、ここらで紹介させてもらうとします。
わたしが書いた短編は、『少女病』(七月に光文社より刊行予定)のスピンオフというか、続編というか、にあたります。
『少女病』は少女小説家の母とそれぞれ父親のちがう三姉妹――四人の大人になりきれない女たちの、ある一年の物語です。吉川トリコ版『若草物語』をやろう、と思って書いたものです。
同人誌に書いた短編は、本編が終わってからの、「それから」のお話になります。だからやっぱり、続編というのが正しい気がします。『若草物語』でいうところのローリーのような男の子の視点から書きました。
もちろん本編を読まなくても、独立した短編として楽しんでいただけるように書きました。ので、よろしくお願いします。
3月11日から今日まで、同人誌用の原稿を含めて二作、書きました。いま一作、書きかけのものがあります。
311以降、書かれる物語は変わってしまうんでしょうか。変わらざるをえないんでしょうか。
自分ではなんにも変わらないつもりでいますが、やっぱりどうしたって意識してしまいます。
これまでわたしは、とくに事件もなにも起こらない日常の物語ばかりを書いてきました。なんにも起こらないはずの日常が、ふとした拍子にどうしようもなく変わってしまう瞬間の物語を、といったほうがいいかもしれません。
でも、もしかしたら、なにも起こらない日常なんてもの、もうどこにも存在しないのかもしれない。なんてことを震災後、たびたび考えては、ぞぞっとします。とりつかれたようにそればかり書いてきたわたしには、恐怖ですそんなの。
このことに関しては、まだはっきりした答えは見つかっていません。
けれど、理想郷としてのなにも起こらない日常といえば、それこそオルコットやモンゴメリなんかがぱっと浮かびます。
夢物語でもいいんじゃないか、とだからいま、思っています。
こんな生ぬるいもの、こんなあまっちょろいもの、読んでられるかあっ! と頑固親父にちゃぶ台を引っくりかえされる(イメージ)こともあるかもしませんが、いまだからこそ夢物語を求める人が、ほんのひとにぎりでもいるのではないかと。
ならばわたしは、その人たちに向けて夢物語を書こう、書きたい、書かせてください、としんから思います。だからどうかいてください、ほんのひとにぎりでも、お願いします。
吉川トリコ
「ねむりひめ」で第3回R−18文学賞大賞・読者賞受賞。
最新刊は『夢見るころはすぎない』(集英社文庫)。
七月に光文社より『少女病』刊行予定。
好きな男性のタイプはツンデレ。
http://yotrico.jugem.jp/