こちらは東日本大震災復興支援・チャリティ小説同人誌『文芸あねもね』公式ブログです。
最新情報や執筆者&内容紹介など随時更新しています。
「女による女のためのR-18文学賞」過去受賞者(+α)で
「少しでも東日本大震災被災者の力になれれば」と話し合った結果、同人誌をつくることになりました。
2011年7月15日より2012年2月24日まで、電子書籍サイト・パブーにて電子書籍版を販売、
その後紙の書籍として新潮文庫に入る運びとなりました。
現在、朗読プロジェクト「文芸あねもねR」も進行中!
【執筆者一覧】
彩瀬まる・豊島ミホ・蛭田亜紗子・三日月拓・南綾子・宮木あや子
山内マリコ・山本文緒・柚木麻子・吉川トリコ(五十音順/敬称略)
■イラストレーション/さやか ■デザイン/山口由美子
※参加者の詳細は「プロフィール欄」をお読みください。
※この企画の成り立ちについては「はじめに」をお読みください。
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文芸あねもね物語〜終点のあの子編〜
2011.11.26 Saturday | category:文芸あねもね物語
もし、文芸あねもねと「終点のあの子」がミックスしたら、きっとこんな感じ……。
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柚木麻子作「終点のあねもね」
私の名前は奥沢朱里(15)。都内のお嬢様女子校に通ってるの。パパは有名カメラマン、個 性的でセンスの鋭い私は、クラスの注目の的。人の顔色ばっかりうかがっている同級生にはうんざり。早く自分を自由に表現できる場所にいきたいわ
そんなある日だった。隣のクラスの優等生、彩瀬まるとかいう子がやってきたのは。
「奥沢さんって作文得意よね? ねえ、よければ私達『文芸あねもね』を 助けてくれない」
群れるのは苦手だけど文章には自信があるし、クラス以外の場所でちやほやされるのは悪くない。
「いいわよ、手伝ってあげても」
まるが案内したのは図書館の奥にある小部屋。ドアを開けた三年生を見て、私は嫌な気がした。
「初めまして、私は部長の宮木あや子」
言われなくても知ってる。人とつるまず小説ばかり読んでいるくせに、彼女は学園のプリンセスだった。校内に多数の信者がいるという。 あまり近づきたくないタイプね。
部屋の中央にあるテーブルを、六人の女の子がずらりと取り囲んでいた。パソコンから流れているのは、クラスメイトが好むようなジャニーズの曲。ふん、宮木 先輩も所詮はふつうの女の子と一緒の趣味じゃない、と私は少しだけ安心した。
「あなたが奥沢さん?私は副部長の吉川トリコ」
フレンドリーに笑いかけた上級生を見て、また不愉快になった。ダサい制服をこんな風にシックに着こなす子が自分以外にもいたなんて。
「声をかけたのは他でもないわ。今度こんなものを売り出すのよ…。書き手が一人足りなくて助けて欲しいの」
そう教えてくれた美少女は蛭田亜紗子。チャリティと聞いて、私はすっかりやる気をなくした。そういうのって偽善的だし、好きじゃない。
「ここにいる八名と顧問の山本文緒先生にも短編を書いても らうの。でも、一年の柚木麻子っていう子が今、停学くらってるせいで参加できなくなったの?」
停学? 問題児も自分一人で十分なのに。
「もう十名って発表しちゃったからさ〜。奥沢さんの書いた漫画、うちのクラスにも回ってきたよ〜。天才だよね。是非、その力を『あねもね』で生かして欲し いなあ。さすが奥沢エイジさんの娘」
隣に座っていたちょっとギャルっぽい子に褒めそやされ、少しだけ気を取り直す。山内マリコとかいうんだっけ。
「ふうん。いいですよ。書いてあげても。面白そう」
私が胸を張ると、小さな部室は歓声と拍手に包まれた。いい気分。自分の才能を見せつけるいいチャンスだ と思った。
それから一週間ーー。
私は一行も書けないまま、ふてくされて部室の戸をたたいた。いざパソコンに向き合うと何の言葉も出て来なかった。
「はあ? 約束と違うじゃん」
形のいい眉をひそめたのは、クールな一匹狼の南綾子先輩だ。
「どうして書いてこないのよ」私は唇を噛み締め、女の子たちをに らみつけた。なによ、文系乙女を気取っているくせに、ここも教室と一緒だ。人と違うことを許せない。枠からはみ出す子をいっせいに糾弾する。
「仕方ないでしょ。書けない時は書けないって」
やんわりと割って入ったのは、見知らぬ上級生だ。誰だっけ。
「書けないなんて言ってません。書かなかっただ け」
むっとして言い返すと、隣のクラスの三日月拓とかいう子が耳打ちしてきた。
「伝説の豊島先輩にそんなこと言うのやめなよ」
としませんぱい? え、豊島ミホ?
思い出した。私は目の前のすらりとした女の子を呆然と見つめる。去年、さる文芸誌の新人賞を最年少で受賞した、本物の有名人。受験勉強優先ということでそ れきり執筆をしていないのが、いっそうスター性を高めている。私はくやしくなった。こんなことなら、どんなに拙い作品でも提出すればよかった。
怖かったのだ。思ったより大したことないじゃん、お父さんほどの力はないんだよね、本当はフツーの子じゃない……。そんな風に笑われるのが。なにより何が 何でも表現したいものが自分の中にないことに気付かされショックだった。すべてを見透かすように豊島先輩は優しく微笑んでいて悔し涙が滲んだ。
その時、ドアが音を立てて開き、山内マリコが息をきらせて、駆け込んできた。
「見つけました!代打をやってくれる十人目の執筆者です!」
遠慮がちに入室した女の子を見て、私は息をのんだ。
同じクラスの保田早智子! クラスで最もイケてないグループに所属するダサ女子ではないか。なんで彼女が…。
「保田さんの仕上げた短編、面白いんですよ〜。そのまま載せられるレベルです。漫研もやってるから、絵も描けるし」「わあ、救世主ね!」「ようこそ、保田さん!」 「ビバ!あねもね」
部員にわっと取り囲まれ、保田早智子は恥ずかしそうに笑っている。私は黙って席を立ち部室を後にした。もう二度と 「文芸部あねもね」になぞ関わるものか。私が認められる場所は他にある。ドアを乱暴にしめても女の子達の歓声にかき消され、私が出て行ったことに誰も気付 かないみたいだった。(了)
* * * * * * * * *
以上、まいどおなじみの柚木麻子おはなしツイートでした。「文芸あねもね」まだまだ、よろしくお願いします!そして、プライドが高く傷つきやすい朱里がその後どうなったのかはこちらをどうぞ!
文芸あねもね物語 〜キャバクラ編〜
2011.09.13 Tuesday | category:文芸あねもね物語
もし、文芸あねもねがキャバクラだったら、きっとこんな感じ……。
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柚木麻子作「文壇キャバクラあねもね物語」
俺はさるメーカーの営業部長(55)。会社の収益は激減、冷えきった夫婦生活。なにより今の日本を覆う閉塞感と先の見えない不安に、俺の心は折れる寸前だった。もう久しくうまい酒なんて飲んでない。そんなある日だった。歌舞伎町でアイツに再会したのは。
「旦那、お久しぶりですね」
抜け目なさそうな顔に見覚えがあった。
「柚木!? 伝説の銀座の黒服と呼ばれたお前が、歌舞伎町で一体何を!?」
景気の良かったころ、毎晩のように飲み歩いていた銀座の思い出が蘇る。柚木の仕切っていたいくつかの「文壇バー」。読書好きの俺にとっては憧れの店だった。
「ははは…。もう銀座に執着する時代でもないでしょう。今はこんな商売を始めましてね」
柚木がスーツのポケットから差し出した名刺に俺は釘付けになった。「文壇キャバクラあねもね」!?
「今や、文壇は手の届く場所にあるべきなんですよ。本は電子書籍でも読める。作家とはツイッターで直に話せる」
「お高くとまったクラブで、さも高尚そうに文学の話をする時代は終わりましたよ。時間があるならどうです? いい子揃えてますよ。うちはR−18…おっと良い子は見ちゃ駄目な大人なサービスが売りでずぜ」相変わらず口八丁手八丁な柚木がもはやまぶしかった。柚木に誘われ、俺は店に足を踏み入れた。
「いらっしゃーい。暑かったでしょ。ささ、中へどうぞ」
艶っぽく微笑んだ着物姿の女に俺は危うく恋に落ちそうになる。
「ママのあや子です。こう見えてざっくばらんな性格なのよ。くつろいでいって下さいね」
外見と裏腹の気さくな態度に、一気にくつろいだ。ソファ席に通されると…
「あらあら、いいスーツね。これ、オーダーメード?」
鮮やかなドレスにトップを膨らませた七十年代風の髪型のスタイリッシュな女が、オレの背広を脱がせた。
「ごめんなさいね。服というとつい気になっちゃって。私はチーママのトリコよ」
若いホステスが作ってくれた水割りの美味しさに目を見張る。
「新人のまるです。よろしくお願いします。まだまだ不慣れでお恥ずかしいんですけど」
はにかんで微笑んだ若いホステスの清純さに、心が洗われるようだ。
「水割りもいいですが、当店のおすすめは特製カクテルなんですよ」
カウンターの奥から黒猫のような印象のミステリアスな女がにこりともせず言った。
「ばばあのば……じゃなくてバーテンダーの綾子です。おすすめはウォッカベースの『夜を駆けるバージン』ですが『憧憬☆カトマンズ』もさわやかなライム味で梅雨あけにぴったりです」「この『少女病』っていうのは?」「キルシュベースの甘さが人気ですが、あとから絡みつくように酔いが回りますよ」
綾子がシェ–カーを上下する小気味良い音を楽しんでいると、トリコがすらりとしたホステスを連れて来た。
「当店NO.1のミホちゃんですよ〜」
ホステスとは思えないピュアな少女に、俺の胸は高鳴る。思わず「可愛い…」とつぶやいたら彼女は真っ赤になって下を向いた。
「私は底辺女子高生なんで」
「ヘルプの拓(ひらく)です」ぱっちりとした瞳の女が隣に腰かけた。
「拓ちゃんはこうみえて人妻でお子さんがいるのよ」とあや子。
「へえ、見えないなあ。こんなに可愛い奥さんだと旦那さんは心配だね」
「うふ。『ボート』っていうカクテルをおすすめしますわ」
拓はぞくりとする流し目を送ってきた。
煙草を取り出すと、すかさずライターを差し出したのは、神秘的な印象の美人。
「亜紗子です。源氏名は。でも、あなたには『かれん』って呼んで欲しいの」
「どうして」「今日だけは自分じゃなくなりたいの」
かなり特異な接客法に心がつかまれた。ミホは俺の煙草を見て「火が見える」とつぶやいている。
突然店内は八十年代風ディスコ音楽と色とりどりのライトでいっぱいになる。
「さあ皆さん、お待ちね、あねもね名物パーリータイム!当店のダンスクイーン山内マリコが踊ります!」
ステージ上にはマイクを握った柚木が立っていた。
「フウーッ、フウー!」
黒いチュチュ姿の美女が舞台袖から飛び出してくる。
「イエー!イエー!」日本人離れした弾けたノリに俺の心のもやもやは一瞬で晴れていく。マリコは勢いにのって「ブラックスワン」の黒鳥ダンスをカクカクと踊り出した。キャバ嬢とは思えない捨て身のギャグに俺は涙が出るまで笑い転げた。隣のテーブルで上品な女性がボトルを入れているのが見えた。
「俺もボトル入れようかな」
何だか威勢のいい気持ちになってそう言うと、あや子ママがこちらの手を握りしめてきた。「お気持ちは嬉しいわ。でも、ボトルなんていいの。あちらのテーブルの山本文緒さんはここのオーナーだから真似することなんてないの。だけど、どうしてもって言うんなら…」
「380円のこちらを購入していただきたいわ」
「チャリティか……。偉いな」俺は思わず自分を振り返った。憂うばかりで少しも行動にうつしていない。
「偉くないわ。基本はキャバ嬢。楽しんでいただくのがお仕事よ。私達やれることしかやらないの」とミホ。
「俺は確かに古い価値観にこだわり過ぎていたのかも……」
「電子書籍っていっても簡単よ。パブーにて販売だけど、特殊なソフト等は必要ないの。パソコンのブラウザやPDF形式で読むことができるわ。もちろん、iPadやiPhoneでも」とトリコ。
「大サービスよ。原稿用紙580枚分だもの」女達に取り囲まれ頭がぼうっとしてくる。ミホが潤んだ目でこちらを見上げてきた。
「私なんて164枚も書いたんだから」
アンソロジーなのに!?胸がきゅんとする。
俺はミホにとりこになるのを感じた。「買った!」
ネオンに消える男の後ろ姿を見つめ、柚木は煙草の煙を吐き出した。
「さすがミホさんっすね。ありゃいい太客(ふときゃく)になりますよ」
あや子は肩をすくめた。
「山の上ホテルの時みたいな面倒はご免よ」
「やっと見つけた私にふさわしい店ですからね、ヘマはしませんよ」
柚木はにやりと笑った。(了)
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「文壇キャバクラあねもね」是非おこし下さいませ!歌舞伎町きっての低価格、寄りすぐりの十名の女の子と美味しい作品、そして何より伝説の黒服柚木のキレ味抜群の接客を楽しみにきてください!
さてさて、「キャバクラあめもね」の名物バーテンダーこと、南綾子さんがWebマガジン幻冬舎で連載中のエッセイ「かなしい疑問」が、あさって15日、いよいよ最終回です!いや〜〜〜っっ、い〜〜〜やっ〜〜! 終わるの!? と、悲鳴をあげてしまいそうです。身内びいきではなく(注・柚木はオール讀物新人賞出身者なので、そもそも身内ではない)、私、この連載本当に楽しみにしています。もし、まだ読んでいない方がいるなら、これはもう断言しますが、ものすごい損をしていると思うので、今すぐに読んだ方がいいと思います。これがタダって……。並の女なら目を背けたくなるような男と女の真実にこれでもかこれでもか、と肉薄していく著者の姿勢は、平成版「ルンルンを買っておうちに帰ろう」! 手に汗握りつつも、核の部分にあるピュアで傷つきやすい少女性とのギャップに、読者は南綾子さんを愛さずにはいられなくなると思います。ポッチャリに関する考察には、強心臓の私さえ、かなり胸をえぐられました。(しかし、写真を拝見するかぎり、南さんはポッチャリではないです)
以上、南さんの傑作「嘘とエゴ」のヒロインがそうであったように「ポッチャリパブで働けば、私だってスレンダーなのよ!」と自分に言い聞かせ、今日もおむすびをむさぼっている柚木がお届けしました。
(文責・柚木麻子)
文芸あねもね物語 〜「嘆きの美女」編〜
2011.08.08 Monday | category:文芸あねもね物語
柚木麻子作「嘆きの美女」のヒロインから見た「文芸あねもね」は
きっとこんな感じ…。
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池田耶居子は、オタク仲間の柚木麻子が「文芸あねもね」なるチャリティ同人誌に参加していると知り、驚く。「R−18文学賞出身作家にアンタが混じっている? そんな奴ら、スカしたビッチ軍団に決まっているだろ? アンタ、なじめてんのか?」
柚木はにこにこしている。
「そんなことないよ? 皆、可愛くておしゃれだけど気さくな人達だよ。エロは描くけど全然ビッチじゃないよ」
耶居子はむしゃくしゃしていた。ダサ仲間だと思っていた柚木にイケてる仲間が出来たのも、可愛くておしゃれな女共が徒党を組んでいるのも、どうにも気にいらない。
「そんなに気になるなら会いに行けば? 『文芸あねもね』の広報活動の話し合いで、メンバーは都内のマンションに泊まり込みのはずよ」
柚木にもらった地図を頼りに、耶居子は青山の裏通りにある謎めいたマンションにたどり着いた。ここが「文芸あねもね」のアジト…。
401号室のドアをノックすると、強烈なオーラを放つロングヘアの女が飛び出してきた。背後では嵐の「Love so sweet」が爆音で流れている。
「池田耶居子さん? 柚子のお友達ね。初めまして、私が宮木あや子よ」
彼女は優雅に微笑んで右手を差し出した。なんだ、この女優みたいなのは!?
あや子の後ろから顔を出したのは、スタイリストと見間違えてしまいそうなグリーンのワンピースがお洒落な女。
「柚子の友達? 私、吉川トリコ。フーン、時間あるならちょっとコーディネートさせてくれない? バーゲンで買い過ぎちゃったのよ」
「トリコさんのスタイリング生で見られるのマジ光栄っす」
もみ手せんばかりの勢いで割り込んだのは、きらきらした目の美人。綺麗なことは綺麗だが、柚木に共通する三枚目なオーラだ。
「私、山内マリコ。さ、耶居子ちゃん、向こうで着替えよう」
「いえ、私はいいですから」
逃げようとする耶居子の前に、アーモンドアイのクールな印象の女が立ちふさがった。
「往生際が悪いよ。あきらめてトリコとマリコの着せ替え人形になんな。 私は南綾子」
ぶっきらぼうな口調とにこりともしない表情が、同性としても惚れ惚れするような格好よさだ。ぼうっとしているうちに、耶居子はカラフルなロングTシャツ姿にされてしまう。
「みんなー、休憩。ご飯が出来ましたよ」
おっとりした口調に優しげな瞳。いかにも癒し系な若い娘がキッチンから顔を出す。「今日はカレーよ! 私は彩瀬まる。 ねえ、耶居子さん、豊島さんを呼んできてくれる?」
言われるままに、耶居子は廊下を隔てた小部屋をノックする。すらりとした綾瀬はるか似の女があらわれた。驚くほど足が長い。
「ふあーあ、眠い。だあれ、あなた。新しい広報さん? あたし、豊島ミホ」
寝ぼけまなこをこするミホと一緒に耶居子はキッチンに向かう。テーブルには、赤ちゃんを抱いた睫毛の長い女が微笑んでいる。子持ちも?
「初めまして。三日月拓です」
赤ちゃんがアブアブと嬉しそうな声を上げ耶居子を見つめた。
子供好きな耶居子はちょっぴり嬉しくなって赤ちゃんを抱き上げる。なんだか楽しいかも……。まるの作ったカレーはよく煮込まれていて美味しい。シャープな印象の美人、蛭田亜紗子はぼそりとつぶやいている。
「ムカデ人間…どうしよう…」
耶居子は思わず叫んだ。
「私も行くの迷ってた 」「まじで!?」
外見に似合わずダークでとぼけた内面を持つ亜紗子と耶居子は意気投合。その他、大家さんの山本文緒さん、隣の部屋をシェアしている山口由美子&さやかというお洒落女子も加わり、夕食はおおいに盛り上がった。「文芸あねもね」けっこういい奴らかも…。しかし…。
食後のぶどうをつまみながら、あや子は浮かない顔だ。
「『文芸あねもね』、不安だわ。もし、全然売れなかったら…」
「ただでさえ、380円だもねー」とつぶやくミホ。
「一部380円?」驚く耶居子。なんて安さだ…。
「電子書籍ってまだまだハードルが高いのかな。難しいことは何もないのに。パブーにて販売だけど、特殊なソフト等は必要ないの。パソコンのブラウザやPDF形式で読むことができるわ。もちろん、iPadやiPhoneなどでも」とミホ。
「原稿用紙580枚分、10名の作家。話題性は十分だと思ったけど、本当にうまくいくのかな」と、トリコまでが浮かない顔。耶居子はだんだん苛々してくる。一生懸命やっているくせに、どうして自信を持たないのだろう。これだからリア充が嫌いだ。少しでも思い通りにいかないことがあるとすぐ弱気になる。
「しっかりしな」耶居子は声を張り上げた。「私が宣伝に協力する。今度、友達の有名カメラマンがデカいパーティーを開く。そこでバッチリ宣伝するよ」「本当?」座は一気に盛り上がる。「インパクトのある演出考えたんだ」耶居子の宣伝とは? 続きはこちら。
* * * * * * * * * *
ちゃっかり拙作の宣伝までしてしまい、申し訳ありませんでした。
(近日、単行本化の予定です)
でも、耶居子はきっと「文芸あねもね」を応援してくれるはず!!
皆様も、今後とも応援をよろしくお願いします。
(文責・柚木麻子)
文芸あねもね物語 〜学園編〜
2011.07.25 Monday | category:文芸あねもね物語
何事も中学高校の教室に当てはめると本質が見えてくるものですが、
「文芸あねもね」は例えるなら……
そう、あの地味で目立たない文芸部そのものであります。
教室に彼女たちはいません。なぜなら居場所がないから…。
彼女たちは放課後、主に部室にいます。(休み時間はトイレか保健室にいます)
ここはあねもね文芸部。
日当りが悪く湿気も多く、その上カビ臭い図書室の一角に、
放課後9名の部員が集まってきます。
共学なのに部員は女子オンリーです。
グラウンドからは運動部のわいわいした声が聞こえ、
スコート姿のテニス部員がドアの前を横切ったりしています。いいなぁ…。
部員はもちろん、男性と交際した経験がありません。キッスもまだです!
そのくせ谷崎潤一郎や澁澤龍彦などをわけもわからず読んでいるため
(3ページくらいで挫折してもそれは内緒)
妙に倒錯したエロスの世界を書いてきて、顧問の山本文緒先生を困らせたりします。
宿命のライバル手芸部さえも、最近はほっこりというワードで
いい感じにもてはやされてイキイキしているというのに、
われわれ文芸部員には一度たりとも光が当たったことがないのです。
せめて絵がうまければ漫画研究部に入れるのに。
漫画なら一本当たれば一生安泰なのに…。
わがあねもね文芸部の部長、宮木あや子さんは、
校内に熱い信者を数名抱えるうちの部のスターです。
しかし、制服のスカートの下に勝手にパニエを着用するなど、
我が道を行く孤高の存在ゆえ、
われわれ平の部員にとっては近寄りがたい存在でもあります。
そんな宮木さんと唯一対等に話せるのは、副部長の吉川トリコさん。
いつもファッション誌を小脇にかかえ、付箋を貼り付けては、
今月のバジェットと睨めっこしています。
そんな二人の会話をこっそり盗み聞き。
「8月のカツンコンとれた」
「宮木さん最近担降りしたって本当?」
…専門用語が激しすぎて、なんのことだかさっぱりわかりません。
「あのふたりはジャニーズの話しかしないから」と教えてくれたのは、
バイトが忙しくてほとんど部室には来ない南綾子さん。
「ねえねえ! ちょっと! 校門に来て! スゴいことが起きてるから!」
息を切らしながら図書室に入ってきたのは柚木麻子。
通称・柚子はいつ頃からか毎日部室に入り浸るようになったとなり町の女子校の生徒。
一人だけチェックのスカートの、いかにも私立って感じの制服を着ています。
柚子に誘導されて校門へ向かうと、
「あ、あれは…」
伝説の先輩、豊島ミホ!
豊島さんは年下だけど飛び級したのでわれわれの大先輩です。
新人賞の最終選考にまで残った実績があるのに、
去年あっさり高校を中退して書くのをやめてしまった。
通学するのがよっぽど大変だったみたいで
「もうあんな高校に未練はないよ」とすっぱり。
わたしたち2年にとっては憧れの存在だ。
豊島先輩にすかさずファンタを差し出す太鼓持ち柚子。さすが!
豊島先輩を引き連れて部室に戻ると、メンバーが全員そろっていました。
しっかり者なのによーく話すとおかしなことを言う蛭田亜紗子さんや、
乳飲み子を抱えて登校する三日月拓さん、
2コ下の後輩なのに既婚者で料理上手の彩瀬まるさん、
顧問のような後輩、窪美澄さんの応援を受け、
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え〜、若手の女子作家というと、
スカしたお気取りビッチなイメージもあるかと思いますが、
みんな気さくないい人たちです。
(ちなみにここでいう若手とは、「売れない」の婉曲表現ですあしからず)
われわれが受賞したR-18文学賞は、「性」をテーマにした短編の賞なので、
純文系の守られた感じはなく、
ヨゴレ仕事担当の捨て駒グラドルみたいな感じで…(←言い過ぎ)
どこの会社でもそうですが、下っ端がいちばんいい奴らです。
お金と権限はないけど。
震災や原発問題に揺れる現状を目の当たりにし、
ちょっとでもいいから人様のお役に立ちたいという思いから、
お金と権限のなさを逆手にとって生み出されたのが、
チャリティー小説同人誌「文芸あねもね」です。
電子書籍パブーさんのご協力もあって、収益金は全額寄付!
なかなかできない試みだと、参加できたことを誇らしく思っております。
発売から10日経ちましたが、販売部数はぶっちゃけ足踏み状態に突入…。
みなさん、これ、思ったより売れてないので、どうか応援よろしくお願いします。
できれば「これだけ寄付できました!」とニコニコ明朗会計で成果を発表したいのですが、
あんまり売れてないと恥ずかしくて、いくら寄付できたか言い出せないかも…。
(文責・山内マリコ)